今回お話をお聞きした鷲野宏さんは、2008年より行われている
都市楽師プロジェクト」のプロデューサー兼総合ディレクターを
されています。
このプロジェクトでは、「まち」という空間に重きを置き、
音楽家と一緒に数々のイベントを展開しています。
鷲野さんの今までの仕事から、
「空間プロデュース」に対する想いをお聞きしたいを思います!


【鷲野宏さんプロフィール】
芝浦工業大学を卒業後、
代議士秘書として国政から地域までの政策広報を行う。
2007年鷲野宏デザイン事務所を設立。
2008年より音楽などのイベントを通じて、
建築や都市空間の魅力を再発見することを目的とする任意団体
「都市楽師プロジェクト」のプロデューサー兼総合ディレクター
としても活躍している。


最初に、デザイン事務所を立ち上げる前に
代議士秘書をされていた経緯を教えてください。

元々デザインに興味があって、子供のころからデザイナー、
特に建築家になろうと思っていました。
でも僕が大学生の頃には、どこにいっても無個性なまちの表情を
無視できなくなってきました。
また、地方の郊外型ショッピングセンターの出店拡大と
商店街の衰退を無関係に捉えられなくなり、
日本の都市計画ルールのあり方に関心が向くようになりました。
社会のルールが効果的に機能していないのならば、
その制度を変える努力をしなくてはと、今思えば随分短絡的ですが、
政治に関わる必要性を感じた訳です。


今のような郊外型ショッピングセンターが立ち並んだ
きっかけがあるのですか?

かつて、日本は自動車に代表されるように、
盛んに原材料を外国から輸入し製品を輸出していました。
その結果、日米貿易摩擦といわれるような軋轢を生み、
その解消のため日米政府間に、
日米構造協議などの交渉が続けられます。
米国企業にとっての日本参入障壁を低くするためのひとつとして、
大型店舗の出店を規制していた大店法の規制緩和が行われます。
これにより郊外への大規模な小売店舗の出店に道が開け、
多くの郊外店舗が成立することになりました。

大型店舗の進出によって新しい産業ができたことは、
経済指標的には良かったでしょうが、地域の商店街は衰退し、
人間の土地に根差した生活からは少し離れてしまいました。
というのも、今までは電車を基盤として都市が発展していました。
車を持っていない人も、電車なら安いし気軽に乗れますよね。
でも、大型店舗は駅とは関係ない場所に作られることが多い。
土地も安いし、道路交通が良さそうなところに作るんです。
だから、まちとしての構造が悪くなってしまい、
人々の生活基盤が揺らぎました。

都市の計画とは、厳格な規制がないと成立しませんが、
中曽根政権やレーガン政権、サッチャー政権といった
世界的な新自由主義的な規制緩和の流れの中で、
それまで必要とさえてきた公的な規制すら経済ルールの前では、
優先的には捉えられなかったようです。


鷲野さんのHPに掲載されている「デザインから日本を変える」
というフレーズが気になったのですが、
この考えが芽生えたのはいつ頃だったのですか。

これは20歳くらいの時に思ったことです。
デザインという行為は、物事の問題を捉えて、
解決策を講じることだということができます。
レイアウトだとかグラフィックデザインだとかの
結果としての表層のものだけをとって、デザインとは言いたくない。
物事をシステムとして捉える姿勢があって
初めてデザインすることができると・・・。
そういった意味でのデザインが得意だという、
若気の至りで思いあがった気持ちがあったから、
デザインの仕事を通じて日本を変えていきたいという
過大な表現になった訳です。


2009年都市楽師プロジェクト
三井本館80周年記念演奏会江戸桜通り演奏会


今回は「空間プロデュース」をテーマにしているので、
鷲野さんが2008年より行っている「都市楽師プロジェクト」について
お聞きしたいと思います。
このプロジェクトはどのような経緯で始めたのですか。

2011年に日本で開催されたUIA大会(世界建築会議)の
プレプログラムの一環として「都市楽師プロジェクト」と称した
音楽と建築を交流させたところで何か新しいものが生まれるのでは
というイベントがありました。
第1回目は少し手伝った程度でしたが、2回目をやろうというとき、
その名称を団体名として僕が引き継いで、まちづくりの基盤としての
まちへの意識づくりに力点をおいたプロジェクトとして
再構成してスタートしました。

まちづくりというのは、「自分のまちをどうするか」という
意識がカギだと思っています。
だから、少数のデザイナーや権力者がまちをつくり上げるのではなく、
一人ひとりの住民が自分たちでつくっていくことが
大前提だと思うんです。
僕の考える美しいまちとは、デザインが格好いいとかではなくて、
個々人の想いの中に「自分の好き」や「想い出」がある
まちのことです。
田舎にはこの意識があるんだけど、都会にはそもそも稀薄。
郊外型ショッピングセンターの影響もあり、
田舎でも危機的な状況がある。
自分の住んでいる場所を自分の土地だと考えることは大切ですよね。
そういう想いを持って、このプロジェクトを行っています。


「都市楽師プロジェクト」という名前には
どのような意味が込められているのですか。

「都市楽師」というのは、中世からルネサンスの
ヨーロッパの都市において雇われた音楽家たちで、
祝祭などのイベントを演出する人たちを総称した名称です。
都市空間の演出組織としての音楽隊の名称なので、
このプロジェクトに合っていると思いました。
それと、団体といっても刻々と変わる動的な存在として、
昔から「○○プロジェクト」と名付けることが好きだったので、
「都市楽師プロジェクト」という名称を団体名として
命名することになりました。




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