都市楽師プロジェクトは場所をとても大切にしているイベントだと
思うのですが、イベントを行う場所は
どのように選んでいるのですか。

何らかの歴史的なストーリーがある場所に関心があります。
「建物の歴史に敬意を払う」ということは、
僕が空間を使う時に大切にしていることです。
建物や開催場所の空間だけを見るのではなく、
建物が無かった時代のことにも思いを馳せ易い場所
というのがあります。
歴史を見ることで、その時々の人の想いが見えてくるんですよね。
そのような場所では、文化的価値があるから建物を保存しましょう
ということではなく、皆が大切にして来たこの建物を
僕らは今後どう接していくかを考えることの方が大切だと思います。



2009年都市楽師プロジェクト 三井本館80周年記念演奏会


都市楽師プロジェクトを行う際に、
企画から運営までをどのように進めるか、
具体的に教えてください。

一番に大切なのは、コンセプトづくりで、企画の最初期の段階ですね。
コンセプトづくりの段階で周りの人に雑談程度に話してみて、
コンセプトが自分の中でまとまってきたら、
出演者やイベントの内容などがぼんやり見えてきます。

それから、目当ての場所で企画が実現できるか、
場所の関係者に話に行きます。
場所を利用できる可能性が高いとなれば、
その次にアーティストに話に行きます。ここまでの流れが、
まだ止めてもあまり迷惑のかからない「妄想の段階」。


音楽イベントなどを行う際には、
アーティストへのオファーが先のように思いますが、
場所を貸してもらえるかどうかが先なのですね。

都市楽師プロジェクトでは、まず、どこで何をやるかが
大前提ですからね。
確かに場所を考えてからイベントを企画する人は
少ないと思いますので、
このプロジェクトらしさといえるかもしれません。
場所とキャスティングに可能性が見えてきたら、
企画を一通り検討して、実現可能性を考えます。
入源や来客見込み、実施の際のリスクを考え、
費用や利益を検討します。
イベント開催日や広報の期間などのタイムマネジメントも
この時に行います。

そのうえで、場所を貸してくれる人やアーティストと
正式にやろうということになります。
もちろん、アーティストと話していく中で、
新たなアイデアが出てくることもあるので、
それを取り入れて企画内容は、柔軟に変化する部分もあります。
でも、プロデューサーという僕の立場としては、
最初に決めたコンセプトは守り抜くことこそ
役割だと思っていますので、
かなり頑固にコンセプトを云い続けます。

プログラムができてイベントを実行となると、
ディレクターもスタッフもいないと成り立たないので、
人のコーディネイトも大切となりますね。
そして終了後はきちんと反省。
このプロジェクトはこんな風に進んでいきます。


コンセプトにこだわってイベントを作り上げているのですね。

そうです。
都市楽師プロジェクトらしいイベントのコンセプトが
しっかりしていないとやる意味が無い。
美しい建築の中で、美しい音楽をといった企画なら、
ほかに特異な人は大勢いる訳ですし、都市楽師プロジェクトらしい
コンセプトで貫徹しないと意味がなくなりますから、
企画から運営までの中で大切なのは、
コンセプトをしっかりと作って「ブレない」ことだと思います。



2010年都市楽師プロジェクト 日本橋名橋たちの音を聴く


今まで行った都市楽師プロジェクトの中で
一番印象に残っている物はありますか。

一番印象に残っているのは、現在も継続中ですが、
日本橋で行った「名橋たちの音を聴く」というイベントです。
このイベントは、まちの雑音を聴くことから
まちへの関心を強めてもらおうとするものです。
なので、音楽会といいながら、
街の息吹とも云える環境音の大きい場所で、
わざとあまり聴き難い環境で音楽をやる。
「音楽を聴きに来たのに音が聴こえないじゃん。」と思うその気持ちを
まずは「反省」してもらうんです。
そのために、最初はわざとうるさい場所で歌を歌います。
それが、橋の下に入ると反響してよく聴こえるから、
お客さんもびっくりするんですよね。
単に屋外で音楽会をやっても、僕の伝えたいことは
参加者にそこまで響かないんですよ。
でも、移動することによって環境が変わる船の上ならば、
都市をダイレクトに感じる事ができるので、
参加者に響く気がするんです。



2011年都市楽師プロジェクト 日本橋名橋たちの音を聴く


最後に、鷲野さんにとっての「空間プロデュース」とは何か、
教えてください。

建物や都市基盤は作って終わりではなく、使い続けられるものです。
ものづくりの過程で、設計の段階から作った後の使われ方までを
考えて作るのは当たり前ですが、つくられた空間をどう使うか、
作った後の空間で行われる「ことづくり」を重要視して、
物理的な空間の改変へと連鎖していくような
「ものづくり」と「ことづくり」の連鎖を
意識的にプロデュースしていく分野も大切ではないかと思っています。

そのためにも、物理的な建築・都市環境だけではなく、
見えない、または隠れたその場の歴史性を浮立たせて、
空間を幾次元かで味わい愛でる感覚の醸成に向かうような
「ことづくり」による空間プロデュースを
都市楽師プロジェクトでは目指しています。




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