今回は、田中朋子さんに、現在ご担当されている、
8月27日公開の映画『日輪の遺産』について、
具体的にどのような宣伝が行われているのかを教えていただきました。
Vol.3田中朋子さんインタビュー記事はこちらからどうぞ。


  

                (c)2011「日輪の遺産」製作委員会

映画『日輪の遺産』
2011年8月27日公開
原作:浅田次郎(講談社/徳間書店/角川書店)
監督:佐々部清
キャスト:堺雅人 中村獅童 福士誠治
     ユースケ・サンタマリア 八千草薫 他




『日輪の遺産』の宣伝ではどのようなことを行っているのですか?

角川映画というのは、元々、映画と原作本の宣伝を連動させた
"メディアミックス"を得意としています。
本作では既に原作文庫が出版されていましたが、
新たに原作を角川書店から単行本として6月30日に発売しました。
その本には、映画のビジュアルの帯を付けているのですが、
表には映画のビジュアル、裏には人物の相関図が入っています。
そして、なんと映画チケットの「特別割引券」も、付いています。
この帯は、角川書店だけではなく、
『日輪の遺産』の原作を扱っている講談社さんや、
徳間書店さんの文庫本にもお願いをして、付けていただきました。
講談社さんや、徳間書店さんは確かに、角川書店とは
ライバル関係にある出版社ではあるのですが、
映画化された原作は必ず売れるということもあるので、
逆にビジュアルを使わせてほしいと言われることもありました。

こういった、本の表紙にビジュアルを載せるという宣伝方法は、
今すごく行われている方法なのです。
なぜこんなことをやるのか、というと、
書店をメディア化するためですね。
例えば、この『日輪の遺産』の本が書店に並びます。
すると、ただ本が並んでいる場所ではなく、
映画のビジュアルを見せられるメディアとして
書店を活用できるわけなのです。
この手法は、とても有効なものなので、
原作を売りにしていると、より効果があるのです。
ちなみに、今回角川書店から出された単行本には、
角川書店しかできない事として、
浅田先生と映画『日輪の遺産』の監督との対談等が
収録されています。
愛蔵版として、他の文庫本とは差別化されているわけです。

後は、完成披露試写会も8月に行う準備を進めていますし、
元ちとせさんにイメージソングを書き下ろしてもらったりしています。
曲を書き下ろしてもらうことで、
元ちとせさんというアーティストさんと連動して
プロモーションが出来るようになるのです。
元ちとせさんは、8月31日に出される
シングルCDのプロモーションで動くわけですが、
その際に『日輪の遺産』の映像を使ってもらうことが出来ますよね。

主演の堺雅人さんには、
雑誌のインタビューを受けてもらったりもします。
『ダ・ヴィンチ』8月号では、堺さんが表紙を飾っているのですが、
そういった雑誌の仕込みも行っていますね。
また、7月2日から『小川の辺』(2011年7月東映系各館で公開)
というシニア層向けの映画が始まるのですが、
その公開に合わせて劇場に『日輪の遺産』の宣材物を
置いていただけるようにお願いをしています。
さらに、学校の先生だけを集めて作品を見ていただき、
作品に対するコメントを頂き、それを広告などに使い、
宣伝をしていく、ということも行っています。

もちろんこれから、テレビスポットも流していく予定です。

後は、『日輪の遺産』ガイドという小冊子ですね。


             (c)2011「日輪の遺産」製作委員会

これは、劇場と書店に置いていただくものです。
やはり、歴史を描いているので、
チラシよりも少し内容の濃い小冊子を作った方が、
より映画に対して興味を持たせられると考えたのです。
今回、書店では、戦争文学フェアを行っているので、
それと連動した形で、書店側にはフェアの販促物としての利用
ということで交渉をしました。
この小冊子に関しては、
書店の営業の人たちにもちゃんと見てもらっているのですよ。

『日輪の遺産』では、どのような宣伝コンセプトを立てているのですか?

3月11日の大震災を経た今の日本に、『日輪の遺産』という作品が
復興へのメッセージになるように、と考えて宣伝を進めています。
もう1つのポイントとしては、原作が浅田次郎さんというところですね。
浅田次郎さんという作家は、大変人気のある作家さんですので、
浅田次郎さんの原作が映画化されるということは、
この映画のターゲットにとっての
1つの大きなアピール・ポイントだと考えています。
ですので、マスコミ披露試写会、および完成披露報告会見では、
浅田先生にもご登壇いただいて、震災を経た日本人へ浅田先生の口から
メッセージを発してもらう場を作りました。
この会見では、主演の堺さん、戦争経験者であるキャストの八千草さんが
今の震災の状況を経て、この映画の立ち位置みたいなものを
メッセージ性のある言葉で語ってくださったので、
いいスタートを切れたかなという思いがあります。

3月11日の大震災が起こるということは、
映画製作時には全く予想も出来なかったことだと思うのですが、
こういったことを宣伝に盛り込むことは非常に難しくないですか?

もちろん、この作品は3月11日の大震災以前に完成していました。
描かれているのは、戦後復興を信じて、
敗戦までの数日間を過ごした人々の物語が中心です。
宣伝を立ち上げようとしていた矢先に未曾有の大震災が起こりました。
弊社も数日間営業ができない状況にありましたが、
落ち着きを取り戻し改めてこの作品に向き合った時に、
今の日本の状況にあまりにも似すぎているというか、
違う時代のことなのに、スッと入り込んでくる感覚がありました。
それは、監督はじめ出演者のみなさん、スタッフも全く同じで、
さらに試写をご覧いただいたほぼ全ての方が
「今の日本に重ねて観てしまった」
という感想が出るようになったのです。
今、監督や、キャストの方々に
インタビューを受けていただいていますが、
堺さんは、インタビューの際に、
「演じているときも、演じた後も、座りの悪い感じを覚えた。
でも、それでいいと思う。
いろいろなメッセージを含んでいると思うし、
3月11日以降の日本について考える、
補助線としてこの映画を見ると、
また違う味わいになる。」
というようなことをおっしゃっていたのですが、
これが自ずとこの作品のメッセージになっているな、
と私は思いました。
終戦間際の時は、偉い人には敗戦が見えていたわけですよね。
この映画はその座りの悪い時代の数日間を描いているのですが、
それが結局、今の震災があって、原発問題があって、といった、
なかなか見通しがつかない現在の状況だと言えば、
想像が出来ますね。
震災がなかったら、この時代のこの座りの悪さっていうのは、
戦争を体験した方々以外は分からなかったと思うのです。
このようなケースは本当に珍しいと思いますが、
時代や状況の変化に合わせて宣伝をしていく、ということを
今回は非常に学んでいます。

前回は、宣伝プロデュースの全体像について
お送りいたしましたが、今回は、映画『日輪の遺産』で、
実際に行われている宣伝プロデュースについてお送りいたしました。
実際の映画の宣伝方法やコンセプトを知ることによって、
田中さんご自身についてのの記事の内容も
より一層意味深いものになったのではないでしょうか。
8月27日公開の『日輪の遺産』。
公開まであと少しです。
今回のこの記事を読んで、
実際に行われている宣伝を確かめてみるのも、面白そうですね。

        ↓日輪の遺産ホームページはこちら↓
        http://www.nichirin-movie.jp/



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