『kajikaji』vol.3のテーマは出版!
私たちの身近にある本。
あまりにも身近にあるものなのに、
本ができるプロセスって意外と知らない、、、
本ってどうやってできるの?本の編集者になれるの!?
現在、キネマ旬報社で単行本の編集を数多く手がけている、
“本のプロデューサー”、稲田豊史さんが、
私たちの疑問に一つ一つ丁寧に解説してくれました!


【稲田豊史さんプロフィール】
キネマ旬報社 出版事業本部 出版編集部 部長
大学卒業後、97年にギャガ・コミュニケーションズに入社。
その後、DVD業界誌の編集に長く携わり、2010年の春から、
現在の部署で書籍・ムック本の編集を数多く担当されている。


稲田さんはどのような経緯で、編集者になられたんですか?

大学卒業後、97年にギャガ・コミュニケーションズという
映画の配給会社に入社しました。
おもに海外映画を配給する会社だったので、
仕事をしていくうちに、この先この世界で活躍していくには
堪能な英語力が必要だ、ということが分かったんですが、
自分は英語が喋れないので、「この先大変だな」と感じていたんです。
それで、2年目に異動希望を出して
社内のゲームショップ向け業界誌の編集部に異動させてもらい、
その編集を休刊するまでの2年間担当していました。
その後、90年代後半から登場したDVDが普及し始めたことを受けて、
DVDショップの人が読む業界誌『DVDナビゲーター』が
2000年に創刊されました。
学生時代から映画が好きだったということもあり、
ここで10年近く編集をやっていました。
そして、出版部門の独立・合併などを経て、
2010年の4月にキネマ旬報社の出版編集部に異動し、
今は書店に並ぶ一般の本やムックを作る仕事をしています。

業界誌時代の企画はどのように作られていたんですか?

DVD業界誌に携わっていると、映像業界の方から、
世間に発表される前のいろいろな情報が入ってきます。
そこで得た情報を世の中のニーズとマッチさせて、
様々な企画を発案してきました。
DVDというのは、映画や、ドキュメンタリー、TVドラマ、お笑い等、
世の中の様々なエンターテイメントを収録しています。
DVDを扱うっていうことは、
世の中の動きをいっぱい知らなければならない、
ということなんですよ。だから面白いんです。
業界誌での経験があっての、今だと思いますし、
この頃の経験や、人との出会いが
今の仕事につながっている部分がたくさんあります。

単行本の編集者になるために、必要なステップアップはありますか?

一つ言えることは、
新人がいきなり単行本の編集者になることは難しい、ということです。
雑誌の編集部で何年か経験してからのほうが、なにかといいんですよ。
なぜかというと、まず、雑誌は複数の人数で作っているので、
経験の浅い編集者が徐々にステップアップしていける。
たとえば最初は読者投稿ページを担当、
次に小さいニュース記事、
そして大きな特集へ、とか。
雑誌はベテラン編集者と新人編集者が一緒に1冊を作る環境なので、
新人編集者はいろんなことが経験できます。
一方の単行本は、
基本的にひとりでまるまる1冊を製作しなければなりません。
ステップアップのための場所がないんです。

もうひとつ、雑誌は毎回購読してくれる読者が一定数ついているから、
色々なことが試せるんですよ。
たとえば若手の編集者に企画を任せて、冒険した記事を載せてみる。
それが読者に受け入れられなくても、
そのことで大きく雑誌の売上が落ちるということはない。
雑誌名で売っているから、大丈夫なのです。
前の号の反省を次の号に反映していけばいいですし。
ところが単行本は一冊一冊が勝負のため
冒険のような企画を試すことが、なかなかできません。
経験にもとづいた確実性が、その都度必要なのです。
だから単行本編集者は結構雑誌編集を経由している人が多いんですよ。

業界誌から単行本編集者へはどのようなステップアップだったのですか?

もともとすごく出版社への憧れがあったので、
業界誌のように限られた人にしか届かないものだけではなく
誰もが手に取って読める物も作りたい
という気持ちがずっとありました。
その中で『DVDナビゲーター』をやっている時に、
フジテレビの人気バラエティープロデューサー吉田正樹さん
(『ウッチャンナンチャンのなるならやらねば!』や
『笑う犬の冒険』などをプロデュース)
が、フジテレビを辞め、新しく個人事務所会社を立ち上げると、
業界の中で大きなニュースになったんです。
そこで僕も興味を持っていたんで、
『DVDナビゲーター』でインタビュ―しに行きました。
そこで吉田さんからすごくいい話が聞けたので
「これって本になるんじゃないかな」(*1)と思ったんです。
その時ちょうど会社の中で、
「出版編集部以外の社員でも企画を立ち上げて、
単行本を作ってもよい」ということになっていたので、
「やれるんだったらやりたいな」と思い、
業界誌をやりながら、同時進行で作っていきました。

       
     (*1)『人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ』
        吉田正樹・著/2010/キネマ旬報社



今まで雑誌の編集しかやったことがなかったから
単行本の流儀は見よう見まねでしたね。
今の上司に聞いたりしながら、
吉田さんともうまくやり取りができて、
すごく大変でしたけど、楽しい作業でした。
そういう時に、会社のほうから、
「これからは単行本の編集をしていきないさい」と言われました。
もともと憧れていた仕事だったので「渡りに船だ!」と思い、
今の部署に異動になったんです。

単行本の企画はどういう風に生まれるんですか?

いろいろなパターンがあります。
一番みなさんが想像しやすいのは、
「自分が作りたい本を作る!」というイメージだと思うんですけど、
世の中のニーズと合わない場合は、
社内で企画が通らないので、
自分の趣味だけで企画を作っていくことはないんです。
たとえば、このジャンルの本が売れているから、
このジャンルの本を企画しよう、という発想が先にあって、
その中に自分の好きなものを入れていこう
という企画の仕方もあります。

企画が持ち込まれる場合もあります。
たとえば、『“日常系アニメ”ヒットの法則』(*2)は、
とある編集プロダクションの方からの
「『けいおん!』のヒットの謎を解き明かすような
内容の本を作りたいので、キネマ旬報社さんから出版できませんか?」
というお話が出発点でした。
それからどんな内容にするかを相談し、
構成を練り、一冊の本になるまで一緒に作っていきました。

       
 (*2)『キネ旬総研エンタメ叢書 “日常系アニメ”ヒットの法則』
    キネマ旬報映画総合研究所・編/2011/キネマ旬報社



『コメ旬』(*3)に関しては、
文字で読ませるお笑いの雑誌を作りたいな
という企画をもともと自分で立てていました。
ただ、キネ旬は「映画本の出版社」というイメージが強いので、
世間や本屋さんにうまく認知してもらえない可能性があったんです。
だから、すでにお笑いの世界でお笑いの文章を書いていて、
著書もあって名が通っている方を立てて、
プロデュースしてもらったほうがいい、と思って、
お笑い評論家のラリー遠田さんに
編集長をやってもらおうとお話を持って行きました。
すると、たまたまラリーさんも同じような企画を考えていて、
出版社を探している状況だったんです。
「それじゃあ一緒にやりましょう」
というお話になって作っていきました。

         
      (*3)『全方位お笑いマガジン コメ旬』
       ラリー遠田・編/2011/キネマ旬報社




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